支部の方からはもう下げてしまいましたが、せっかく書いたのでこちらにあげておこうかと。ベッタベタの少女向け恋愛小説ですが、よろしければお楽しみください。ホモではありません。
「ジルヴェスタ様のご支度が整いました」
女王の私室からしずしずと出てきた侍女が、廊下で待つ面々にそう告げた。
「随分と時間がかかったな」
渋い顔を作ったのは強面の将軍だった。女の支度は時間がかかって敵わん、と眉をひそめる。大臣の一人が女性とはそういうものでしょうと笑った。妻帯者二人の会話に侍女は困ったように眉を寄せた。
「ジルヴェスタ様が、その、ドレスをなかなかお召しになってくださらなくて。少しお時間がかかってしまいました」
「どうせそんな服は着たくないと騒いだんでしょう、目に浮かぶ」
男性陣の中でずば抜けて若い青年が頭痛をこらえるように蟀谷を押さえる。きつく眉根を寄せる青年は、その年若さを差し引いてもひどく目を引いた。左の眉から頬の半ばにかけて、歪な傷跡が走っているのだ。よく観察すればその左右の瞳の色合いが異なり、左目はまったく見当違いな場所に焦点を結んでいることがわかるだろう。彼の左目はまがい物なのだ。
「はて、ドレスを着たがらないとは。ご用意した衣装では不服でしたかな、我が女王は」
「いや多分そういうことじゃないんですけど……」
皮肉るように唇をゆがめた大臣に青年が左目の目尻のあたりを掻く。曖昧な笑みだけを見るならば人畜無害な青年なのだが、あさっての方向を向いた左目が不気味だ。
「それよりも、準備はできたのでしょう。陛下はいつになったら出てこられるのですか」
「すぐ行くから先に行ってくれとおっしゃられていたのですが……」
侍女が困った笑みで背後の扉を振り返る。見るからに重たそうなそれが開く気配はない。
「すみません、ちょっと失礼します」
青年がその扉に両手をかけた。
「ウーヴェンハルト様! おやめください、女王陛下の私室ですよ!」
侍女の制止を振り払って、青年が扉を大きく開け放つ。青年の凶行に侍女や一部の大臣たちが真っ青になったが、晒された女王の私室を見、さらに顔が蒼白になる。
「やられた……」
青年が憎々しげにつぶやいた。開け放った扉の先には、一国一城の主にふさわしい豪華絢爛な部屋が広がっている。大きく開け放たれた窓からは初夏の爽やかな風が吹き込み、繊細なレースのカーテンを優しく揺らしていた。
部屋には、誰もいない。
「そんな……陛下はどこに」
「もしや誘拐では!」
「そんなことがあれば国の一大事だぞ。そもそも王の私室にそうやすやすと侵入できるわけがない」
「自分で逃げたに決まってるでしょう」
誘拐だ国賊だと騒ぎ立てる大臣たちに青年が一喝する。そんな青年にあたふたと反論したのは一番初めに誘拐だと声を上げた小太りの大臣だった。
「ここは城の最上階ですぞ! どこからどうやって逃げるというのです!」
「窓から壁を伝って脱走するくらいの芸当はしますよ、あの馬鹿は」
さらりと国家元首を馬鹿呼ばわりし、青年は踵を返して走り出した。
「ウーヴェンハルト様、どちらへ!」
「ちょっと探しに行ってきます」
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夏の匂いを含んだ風が銀色の髪をかき回していく。長時間椅子に縛り付けられて整えられた髪はわずかな逃避行の内にすっかり乱れてしまっていた。いつもとさわり心地の違う髪をつまみ、ジルヴェスタは深くため息をついた。我ながら酷い恰好をしている。身の丈に合っていないドレスはここに来るまでにあちこち破いてしまったし、かかとの高い靴も途中で脱ぎ捨てた。おかげで足もすっかり汚れてしまっている。こんな女王がどこにいる、ともう一度溜め息をついた。前髪が視界を遮るのがうっとうしい。
「おー、いたいた。やっぱり馬鹿と煙は高いところが好きなんだな」
「バカって言うなばーか」
ひょこりと幼馴染が顔を出しても別段驚かなかった。足音で誰かが近づいてきていることは分かっていたし、自分を探しにこんなところに来るのはこいつくらいだ。衛兵や侍女たちも自分を探し回っているようだったが、探すのは城内の部屋や庭の東屋ばかり。どんなに探しても庭の生け垣の影程度だ。高貴な女王陛下がこんな場所にいるとは思いもよらないらしい。
「髪に枝絡まってるぞ。どうやったらそんなになるんだ」
「え、まじで、」
隻眼の幼馴染、ウーヴェンハルトの言葉にジルヴェスタは片手でぐしゃぐしゃと髪をかき回した。粗野な仕草はとても年頃の少女のものとは思えない。着ているのはこれ以上ないほど女性らしい衣装だというのに、その姿はどう見ても女装をさせられた少年のそれだった。ジルヴェスタの性別は紛れもなく女性なのだが、痩せているのかやつれているのか判別の難しい体に女性らしい丸みは未だなく、男所帯で育ったせいもあってかその言動はひどく男らしい。残念ながら彼女の半生に女性らしさを教えてくれる人間はいなかった。彼女に習う気が全くなかったこともまた事実だが。
いつまでたっても髪に絡まった枝を取れずにいるジルヴェスタに苦笑しながら、ウーヴェンハルトがその髪に手を伸ばす。
「ほら、取れたぞ」
絡まった小枝をすべて取り終え、ウーヴェンハルトはどっかりとジルヴェスタの横に腰を下ろした。
「しっかし、よくこんなところ見つけたな」
「おう、城は肩っ苦しくて嫌いだが、こっからの眺めは気に入った」
にかりとジルヴェスタが笑う。唇を大きく吊り上げる品のない笑みは、教育係が見れば卒倒ものだろう。だがまぎれもなくそれがジルヴェスタの素の表情だった。
いくつかの尖塔と本棟からなる城の、本棟部分の屋根の上に二人はいた。本棟部分もいくつかの階層をなしているため、二人のいる最上部は地上からはうかがえない。もちろん二人からも城の庭などはほとんど見えなかったが、そんな足元の景色などどうでもよく思えるほどに、目前には美しい景色が広がっていた。
「こっからでも一応海が見えんだな」
はるか遠くに望む青い海を見つめるジルヴェスタの目には隠し切れない郷愁が滲んでいた。
「歩いていくには少し無茶がある距離だけどな」
「…………そこまではしねぇよ」
「お前ならやりかねない」
「ひっで」
きっぱりと断言され、ジルヴェスタは大げさに顔をゆがめた。
「大臣たちへの挨拶すっぽかして屋根に昇ってる馬鹿猿の言うことは信用ならないな」
「猿ゆーな」
「あのなジルバ、今日の謁見は今後のお前の立場を決める大事な仕事だからできる限り大人しくしてろって俺昨日さんざん言ったよな?」
「できる限り大人しくしてたろ! 何時間髪いじられたと思ってんだ。こんな動きにくい恰好もしてられるかっての」
破れたドレスの裾に手をかけたジルヴェスタはびりびりとその裂け目を大きくした。
「やめろ、バカ」
ジルヴェスタの手の甲をウーヴェンハルトがたしなめるように叩く。痛みはほとんどなくぴちりと音ばかりが大きい平手だったがジルヴェスタは大げさに手を振った。
「お前まで俺の敵かよ、ウーヴェン」
「俺がお前の味方じゃなかった時があったか?」
唇を尖らせるジルヴェスタにウーヴェンハルトは幼子に言い聞かせるように優しく問いかけた。あからさまに拗ねているとアピールする芝居がかった仕草の中に、彼女の本心が紛れていることに気が付いたからだ。
「今。あと勝手に船下りようとして親父にばれた時とか」
「あの時はお前が悪かったからだろ」
「……今も俺が悪いってか?」
声を震わせながらジルヴェスタが俯く。なんとか取り繕うとしているようだったが、虚勢を張っていることなど強く握った拳のせいでバレバレだ。
「少なくとも大臣たちに悪い印象を植え付けたのは失敗だ」
「だってさぁ……!」
必死に反論しようとする声はもうほとんど涙声に近かった。
「だって、意味わかんねぇよ。俺こないだまで海賊やってたんだぞ。それが女王って、どうやったらそうなるんだよ!」
「だから、お前の安全を確保するには海賊に身を寄せるしかなかったんだって説明したろ」
「どこをどうやったらそうなるんだよ! だいたい、一度は手放したのにどうして今更呼び戻されなきゃならないんだ!」
幼い子供のように駄々をこねるジルヴェスタにウーヴェンハルトは困惑する。ジルヴェスタはもともと喜怒哀楽が激しい気質ではあるが、我を忘れて取り乱すようなことはそうそうない。
「お前だってそうだ、ウーヴェン! なんだよウーヴェンハルトって! 十何年も、俺はお前の本名も知らずに生きてきたって言うのかよ! お高そうな服も簡単に着こなしやがって! 流石はお貴族様だなぁ? え? お前は全部知って、俺がどんどん理想のお姫様から遠ざかってくのハラハラ眺めてたんだろ、ふざけんな!」
髪を振り乱して叫ぶジルヴェスタに、十年以上兄妹のように育ったさすがのウーヴェンハルトもたじろぐ。
「落ち着けジルバ、それ以上騒ぐとここがばれるぞ」
なんとか落ち着かせなければと声をかけると、ジルヴェスタは水をかけられた焚火のように一瞬で静かになった。しゅん、と小さくなってしまった姿に、効果がてきめん過ぎたらしいとウーヴェンハルトは少し後悔をした。
「お前なんて嫌いだ、バカウーヴェン」
元ネタは先日見た夢です。一時間とちょっとの昼寝でかなり壮大な夢を見ました。
この間アンジェリークパロを読んだので、それに多大な影響を受けた乙女ゲー風の夢でした。主人公がいろんなイケメンとイベントを起こすのをプレイヤー気分で眺める中津。自分が主人公じゃないあたり色気のない……
いろいろ書きたいエピソードはありましたが、時間切れで何とも意味の分からない話になってしまいました。だが楽しかった。
設定も無駄に練り込んだんだ。むしろ練り込んだ設定に全然触れてないんだ。悔しい。
幼馴染という美味しいポジションですが、ウーヴェンはこのあとどんどん主人公と距離を作っていきます。新しい環境の中でどんどん変わっていくお互いに戸惑って、うまく接することができなくなっていくもだもだが書きたい。
多分これを乙女ゲーにすると、ウーヴェンは隠しキャラ扱いになると思います。普通に攻略しようとプレイすると誰ともくっつかない孤高の女王エンドになります。
とかね、こういう設定をぐだぐだ考えるのが大好きです。でも逆ハーレムもの苦手なのでほかのイケメンキャラが思いつきません。

